「――さてさて」
男がそう言ってブースの側によるのと扉が二つに切り分けられたのは完全に同時だった。
「――よお…」
ブースを火から守るように人形を配備しながら背中越しに男は言う。
刹那、部屋のあちこちから火柱が上がった。
そして切り分けられた扉から一つの影が飛び込んできた。
「――見付けたっ」
その影は男に気付いた瞬間そう言葉を発した。男は笑みを浮かべその影に話し掛けた。
「――1日振りだな、少年」
*
「…幸姉、ホントにここなのか?」
「ええ、そうですよ」
そう言う幸姉を見て俺は少々呆然としてしまった。
「…灯台下暗しってのはこの事か…」
村の西側に位置する立入禁止の建造物。
俺達は今、そこに居る。
「…」
…幸姉がここと言うからにはここに違いないのだろうけど、何処をどう見てもここから人の気配を感じる事は出来なかった。
「幸姉…」
「ふふ、そんな心配しなくても大丈夫です。――鍵は私が弛めておきましたから」
「鍵?」
幸姉がこくりと頷き右手を挙げた瞬間、突然建造物は歪み始めた。
「…え、なっ」
「簡単な視覚幻想です。先入観から発動する簡易タイプですが大抵の人にはこれで十分でしょう」