4-? 夏の訪問者
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今日も粋乃は純を見舞いに来た。
『具合はどうですか?』
『変わりないです。』
粋乃への気持ちに気付いた純は,粋乃の美しい目を直視することができない。
『どうかしました?』
粋乃はいつもの様に純に微笑みかけた。
『ぃ,いえ何も。』
『でもどこか変です。』
純の側に正座しながら言った。
『そんな事は‥。』
『いいえ,変です。
だって‥。』
粋乃の言葉が途切れる。
『今日は,私の目を見てくれませんもの。』
純は粋乃の声だけでその表情を判断した。
ー 自分は,また粋乃のさんを傷付けている‥。
『違うんです!!』
純は何かを決心したように粋乃に向き直った。
『やっと,気付いたんです‥自分の気持ちに。』
『自分の気持ち?』
『はい,』
純に,ためらいの色はない。
『私は,幼い頃から書道ばかりに打ち込み,一度も恋をしたことがありませんでした。
だけど,今更気付いたんです。』
純は,細い腕で支えながら身を乗り出した。
『私は,粋乃さんに恋をしていると。』
『‥?!』
粋乃は自分の耳を疑った。あの純が,自分に恋をしていると,望んでいた事なのに信じられなかったからだ。
『粋乃さん,愛しています。』
純はさっきよりもはっきりと言った。
粋乃は,ただ目の前の純を見つめている。
『ずるい‥。』
粋乃は言った。
『ずるいです!私だってあなたにちゃんと言いたかった!!』
純は粋乃の心中を読んだようだ。
『言って下さい。』
粋乃の手を握った。
粋乃は,
純を見て少しうつむいて口を開いた。
『あなたを,
愛しています。』
声が震えていた。
純はその愛に答える様に粋乃の頬に触れ,
そっと唇と唇を重ねた。
2人の影は,静かな夏の夕日が差し込む中に,
しばらく同じ場所にあった。
●○続く○●