「シーラ、おいシーラ!しっかりしろ!」
ランスォールがシーラの肩を揺さぶるが彼女の眼は堅く閉じられたまま開かない。
「無駄だ…。サーベルには傷口が固まらないよう毒を塗ってある。」
ラウフに組伏せられ床に倒れている黒スーツが言った。
「シーラは不老不死だ。
毒程度では死なないよ。」 「…待っておれ。」
そう言ってレミスは竈のある、小屋の奥に入っていった。
そしてレミスが手に持ってきたのは小さな水瓶。
「それは?」
「ドワーフ直伝の傷薬じゃ。万病を癒し、解毒する秘薬。」
「呪いは…」
「呪いには効かん。」
ぴしゃりと言った。
黒スーツはロープで柱にくくりつけ、シーラを竈のある部屋とは別の部屋に運ぶ。
「これで大丈夫じゃろう。」
シーラをベッドに寝かせ、濡れたタオルを額に乗せてやる。
「シーラさん、目覚めますよね?」
不安そうに雪がラウフを見上げた。
「ああ。ドワーフの傷薬と言えば最高の秘薬だからな。大丈夫だ。」
「暫くすれば目が覚めるじゃろう。」
シーラを部屋に残し、ランスォールたちは別室に移った。
しかし、そこに拘束していた筈の黒スーツの姿はなく、切られたロープと開け放され、風に揺れるカーテンがあるだけだった。
「くそ、逃げられたか…」
ランスォールは大きく開かれた窓を睨み付けて言った。