雨が降っていた。3日連続の雨。天気予報のお姉さんは正しかった。今日は昨日よりも激しく降っていた。
そんな夜の空を私は新宿のホテルの窓ガラス越しに眺めていた。
(この雨、私の心も体もキレイに洗い流してくれないかな。)
部屋には私一人。そしてベッドには3万円置いてあるだけ。
「またヨロシク頼むわ」
そう言って男達はみんな同じようにいつも先に部屋を出ていく。
私はその3万円を握りしめて部屋を出た。
雨が止む気配はない。
傘がないって思ったけど、もうどうでもよかった。
どしゃ降りの中、私は傘もささずに歩いた。
雨に打たれながら私は昔のことを思い出していた。
「金が必要なんだ」
そう付き合っていた彼は私に言っていた。 彼にはギャンブルで数百万の借金があった。
私は彼の頼りになりたかった。
だから私は体を売った。
そしてその金を彼に渡して返済にあててもらうことにした。
体は許しても心は彼のそばにある。
そう信じて私は自分の体を犠牲にして作った金を彼に全て与えていた。
もう少しで返済が終わる頃、彼は私の前から姿を消した。
私に残ったのは、心と体の傷だけだった。
あの日も雨が降っていた。
彼はいなくなったけど、私は自分を売ることをやめなかった。
一夜限りの男達の優しさにすがって、寂しさを紛らわせたかった。
でも、彼らが帰って行くと、もっと寂しくなる。
そんなことの繰り返しだった。
私の心は満たされていなかった。
雨の中、私は歩いた。
新宿は夜でも明るく賑やかなのが、私にとっては救いだった。
こんな気持ちを街の雰囲気が少し紛らわせてくれた。
(今日はもう帰ろう)そう思って私は駅の方に向かった。その時、私はもうすでにずぶ濡れだった。
あれは、突然だった。私は、空を見上げるとそこには水色の傘が広げてあった。
「大丈夫ですか、風邪ひきますよ。 これよかったら使って下さい」
そう言って、男の人が私に傘を渡し、駅の方に走っていった。
走った勢いで彼のポケットからなにか落ちたらしい。
どうやら学生証のようだった。
私がそれを拾いあげた時には彼の姿はもうなかった。