「へえ〜、ずいぶん可愛いらしい服じゃないか?それに、おニューと変わらないじゃん!」
「そりゃあそうよ!一応美容室の先生をしてますからね。着付けもするし、洋服の見立てだって、手入れだって、人には負けないわよ!」妙子は、自慢げに言った。
「体の大きさも、早織の1年生の時と、同じ位じゃない?今日持って行って、合わせて見たら。買うとなると、以外に高いのよ子供服って!」妙子は洋服をたたみ直して、紙袋に入れてくれた。
「うん、有り難う!早織が着た服なら、空は嫌とは言わないと思うよ…。その他に、何か必要な物はあるか?」
妙子は、1年前の早織の時を思い出しながら言った。
「そうね、入学式前より、その後の方が大変かも!」
「えっ、その後?」
「うん。私たちが子供のころ『さんすうセット』ってあったでしょう」
「ああ、サイコロとか、おもちゃのお金とかな」
「今はね『おどうぐばこ』って言ってね、中身は大体同じなんだけど、その小物の一つ一つに、名前を書かなきゃならないの」妙子は、それも部屋から持って来て見せた。海人は、蓋を開けて驚いた。
「へえ〜。こんな小さな物にまで、名前を書くのか?」
「そうだよ」
「うちのお袋に、出来るかな?」
「この他にも『持ち物全てに、名前を付けて下さい』だって!筆箱の中の、鉛筆や消しゴムにも!」
「へえ〜、そりゃあ、大変だ」
海人は、想像しただけで頭が痛くなって来た。
海人が家へ帰ると、空と富子が、新入学用品が出ている、新聞のチラシを見ながら「あれが良い、これが良い」と、賑やかだった。
「お父さん、お帰りなさい。何?その袋。何が入っているの?」
海人は、袋の中から妙子から預かって来た、洋服を取り出した。
「ああ!洋服だ!買って来たの?」
「いや。妙子おばちゃんから、借りて来たんだ。」
妙子からと聞いて、富子が顔を曇らせて言った。
「海人!妙子さんの所へ言ったのかい?」
「そんな嫌そうな顔をするなよ!早織は、空より一つ上だから、あいつに聞くのが一番なんだよ!」
空は、洋服を広げて、鏡の前に立ってみた。
「ねえ、お父さん。これは、早織ちゃんが着た洋服なの?すごく可愛いいね」
「そうだよ。もう小さくて着れないから、空の入学式にって、貸してくれたんだ。」
海人は、空の着替えを手伝って、鏡を覗き込んだ。