5-? 初秋の桜
『何が,
あったんですか?』
純がためらう粋乃の背中をおした。
『兄弟の母親が,病で亡くなったんです。』
純は,自分の母親が亡くなった時の事を思い出した。
『私が遊びに行った時,ちょうどお通夜の最中でした。しかしそんな中,
その兄弟の1人が,
外でしゃがみこんで何かをしているんですよ。』
『母親の通夜なのに‥』
『私は,その子が何をしているのか覗いたんです。死んだ蟻の墓を作っていました。』
『蟻の墓?』
純は首を傾げた。
『あんなに小さなものをって思うでしょ?
私は,その頃まだ幼かったですから,
それが疑問でしょうがなかったのです。
そこで私は尋ねました。何故母親の通夜を無視して,蟻の墓など作っているのかと。
男の子は,答えました』
粋乃は,
桜並木の墓を見た。
『小さな蟻でも命の重さには変わりない。
誰にも気付かれぬまま消えて行く命がかわいそうだと。』
『それって‥』
今の粋乃と同じ考えだと純は思った。
『その男の子の考えに私は心動かされました。
命の重さは,皆平等なのだと。』
『それが,今のあなたの元になっているわけですね。』
『はい。それからその男の子とは,長い間会えなかった。
だけどやっと出会えたんですこの場所で。』
粋乃は純を見た。
『あなたと。』
時が止まった様に,辺りが静まり返った。
○●続く●○