空と海 ?

内田俊章  2009-02-04投稿
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 涙涙の、感動的な卒園式の噂は、直ぐにひろまった。
 石原妙子は、早織を連れて海人の家を訪ねた。
 「妙子さん、早織ちゃんの洋服を貸してもらって、どうも有り難う御座いました」
 「いいえ、おばさん。そんな他人行儀に、礼なんて言わないで下さい!親友だった菜緒が亡くなって、空ちゃんが本当に可哀想でね……。母親の代わりなんて、するわけいかないけど、出来るだけの事はさせて欲しいんです」
 「実はね、武田の両親が『お下がりを着せるのは可哀想』って言って、新しいのを買おうとしたの」
 「そうだったんですか?余計なお節介をしちゃったみたいね」
 「いや、良いの妙子さん。その時空がね『新しい洋服はいらない。これを着る!』と言って、珍しく駄々をこねたのよ」
 「へえぇ、空ちゃんらしいわ。普通なら新しい方が良いのにね」
 「本当に、誰に似たのかね?」

 間もなく、海人と空が帰って来た。
 「おばちゃん、こんにちは。洋服を貸してくれて、どうも有り難う御座いました!」
 「どう致しまして、空ちゃん。貸してあげたんじゃなくて、あげたのよ!」
 「えぇ?お父さん、もらったの?」
 「………」
 「返してもらっても、早織はもう着れないもね」
 「うん空ちゃんにあげる!」
 早織は人見知りで妙子の横に、大人しく座っていたが、やっと口を開いた。
 「空、早織ちゃんと部屋で遊んでおいで」 空と早織は奥の部屋へ行った。
 「卒園式で空ちゃんは、すごく立派だったって、みんなが言ってたわよ!親として、鼻高々ね、海人さん」
 「俺が言うのも可笑しいけど、本当に立派だった。俺は涙が止まらなくて恥ずかしかったけど」
 「分かるわその気持ち。うちは、父親がいなくて、早織が可哀想って思っていたけど、ここは、母親がいないんだからね!それなのに空ちゃんは、全然寂しそうな顔を、見せないものね!」
 「これから思春期になって、どうなるか分からないけど、今のところは助かってるよ」海人はしみじみと言った。
 「おばさん、この間海人さんにも言ったんだけど、色々な物に名前を書かなければならないけど、私がお手伝いしますから、声を掛けて下さいね」
 「そんな事悪いわ!」
 「お袋も、目が遠くなって来たから、頼んだら良いさ。もちろん俺もやるけど。結構細かくて大変だ、あれは!」



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