今日もまたあの男はやって来た。
「やあ、彩夏。相変わらず景気の悪い顔してるねぇ」
バカにしたような調子で微笑むこの男が、大嫌いだ。
「アンタは相変わらず、胡散臭い顔だな」
容姿端麗、なんて言葉があるが、この男にはまさに似合いの言葉だ。でも、わたしは別に面食いでも何でもない。むしろ、男という生き物がわたしの半径1m以内に侵入する事を法律で禁止して欲しいとさえ思っている。この男に好感を抱く余地などあるわけがなかった。
「で?今日は何の用だよ、暇人」
「前から思ってるんだけどさ。キミ、その話し方は地なの?」
「はあ?」
こっちの質問には答えずに男は不思議そうな顔をして私を見下ろしている。
顔が整っている所為でそれが余計に勘に触る。
「いや、学校ではそんな感じじゃないでしょ?」
「!」
学校。まさか、うちの生徒だったのか。しまった。
「あ、アンタうちの生徒だったのか?」
「そうだよ」
「…知らんな?」
本当に覚えがない。そうして首を傾げていると、男は相変わらずの微笑みで言う。
「まあ、元っていうか。正確には少し違うけどね」
そう、わずかに歪んだ口元に不気味な臭いを感じた。 この後、この男がわたしの前に現われた本当の理由に恐怖することになるとはこの時は思いもしなかった。