例えあなたがあたしの運命でも。

JANIS  2006-07-05投稿
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あの人は、あたしの長い髪が好きだと言った。

あたしはあの人が、あたしの髪にキスするのが好きだった。

彼はいつもあたしの髪を掴み、そこに顔をうずめて、祈りを捧げるかのように、口づけた。

今までで一番短くて、一番素敵で、一番強烈だった恋。

南の島で出会った褐色の恋人の美しい横顔に、胸がいっぱいで泣きそうな気持ちになるほど、恋をした。

けれど。

あたしは日本に帰ることが決まっていたし、例えあの人が運命の恋人だったとしても、その運命に逆らわなきゃ生きていけなかった。
髪を、長いままにしておいて。

君の長い髪が、好きだ。

あたしは日本に帰り、ばっさりと髪を切って新しい仕事に就いた。

強烈な思い出は、髪を切ったくらいでは消えなかったけれど。

それでも忘れたふりをして、何とか東京で生き残ってはいる。

あの時日本に帰らなければ、今より幸せだったのだろうか、と。

考えずにいられない夜もたまにはあるけれど。

広く深い空と、ゆっくりと流れる時間、情熱的な男。
あれから2年経って伸びた髪は、もうすぐあのときの長さに追いつく。

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