次の日、石原妙子が早織を連れてやって来た。
海人が空に「早織と遊んでおいで」と言うと、2人は外へ出て行った。
「さあ、上がって」
「入学式が終わって、やれやれって感じ?」
「そうだな、いくら手が掛からないとは言っても、この二月間位は、せわしなかったよ」海人は言った。
「あら妙子さん、いらっしゃい!」奥から富子が現れた。
「ああ、おばさん、お邪魔してます。疲れてるんじゃないですか?」
「少しね。昨日まで気を張っていたから、肩が凝っちゃってね」
「私が揉んであげるわ」妙子は、富子の後ろに廻って、肩を揉み始めた。
「妙子さんに、肩を揉んでもらうの、久し振りね。お店にも、しばらく行ってないしね」
「そうですね、たまには来て下さい。私の方も、菜緒が亡くなってからは、気軽に来れなくなっちゃって」
富子は、妙子を見直した。海人の妻であり、空の母親である菜緒を、決して忘れる訳ではない。ただ、色々と世話を焼きながらも、全然嫌みが無いし、下心無しで、我が家と付き合ってくれていると感じた。そして、自分にも優しく接してくれている。富子は、妙子と親しくして、損はないと考えた。
「ところで海人さん。空ちゃんの担任は、大空純子と言う先生でしょう」
「うん、今回転勤して来たみたいだな。優しそうな、綺麗な先生だったよ」
「その名前に、聞き覚えはない?」
「えっ、どう言う事だ?どこかで会ってるのか?」
妙子の話は、こうである。
大空純子は、海人たちと同じ年で、父親は中学校の先生をしていた。そして、純子と海人と妙子は、小学校1年生の時の同級生だった。そして2年生になる時に、父親の転勤で引っ越したと言うのである。
「えぇっ、元々『大空』なのか?」
「そうだよ、独身なんじゃない」
「『大空純子』かあ?そんな子、居たかな?」
「私も、大空さんなんて、聞いた事無いけどね」富子が言った。
「それで昨日、写真が無いかと思って、探して見たの。そしたら、遠足の時の写真が出てきたの」妙子は持って来た写真を見せた。
「わあ、懐かしいな!」
「この人よ。覚えてない?」妙子は、純子を指差した。
海人は、子供の頃の写真を見ても、全く記憶が無かったが、ある事を思い出した。
「そう言えば、俺の海人の『海』と、大空の『空』で『海と空だな』って、言った様な気がするよ」