鬱蒼とした山奥にある、おそろしいほど清潔な白い物。
晴れた日の、(優しさと品位を取り戻す)和らぎはじめる午後2時に、ようやくまた美しい輝きと、厚かましい春の日を照り返そうとする白い壁。
冷却用の雨にもなれば、ガラスよりもよく滑り、鏡よりもよく映す。
そうして、はるか彼方から、動物のまきあげた土ホコリが、湿った風に吹き飛ばされてきて以来、ぽつりぽつりと屋根にあたる音がする
………
彼は、差し迫った、上機嫌な歌を聞いた。
そしてやがては、差し迫った、上機嫌な歌を聞いていた。
彼はどこへ行った?
最も快適な仮住まいを抜けて、
彼はどこへ行ったんだ?
鳥のさえずりが聞こえない。熊の鼻息も聞こえない。まして近くに凶器を思わせる機械音がさざめいている。
しかし足裏には落ち葉の残骸を踏みつけるあの柔らかな感触がまだ確かにあり、彼の心はしだいに平静を取り戻した。
つまり意味合いとしては落胆した。「がっかりだ……」こう誰かが彼の耳元でささやいた。
それでも進んで、ここに戻ってくるより他はない。玄関扉を開けて、というのではなく、気付くと彼はこの白い物の中にいる。