尚ちゃんのこと初めは女慣れした遊び人だと思ってた…そういうと尚ちゃんは笑ったね。
でもね…すぐにまっすぐで不器用な人だってわかったよ。
タバコはカラオケの隣に自販機があった。
今、私の前を歩いている人のさりげない優しさが嬉しかった。
顔がにやけないように上を見て歩いていたら
急に立ち止まった尚ちゃんにぶつかった。
「月…綺麗だな」
意外な言葉に驚いた。
「え?」
「上向いて歩いてるからさ」
そう言って尚ちゃんは大きな口を柔らかく広げて笑った。
完敗だった。
尚ちゃんの顔は月の優しい光に照らされて吸い込まれそうなぐらい綺麗だった。
駅まで送ってくれた尚ちゃんに私は
「ありがとう」
と言うと
「俺はタバコ買いに…」
と、尚ちゃんは言い訳。
私が笑うと
「良かったぁ」
と言って小さくしゃがみこんでしまった。
「俺、嫌われてると思ったんだ」
可愛い…そう思った。
「嫌いじゃ…ないよ」
私はそんなことしか言えなかった。
尚ちゃんの携帯がなる。
「帰ってこいって」
とだるそうにする尚ちゃんがまたあの笑顔で
「気をつけて帰れよ」
と言ってカラオケに戻っていった。
私は尚ちゃんの背中を見つめ、少し胸が苦しくなった。