午前三時ごろだったと思います。私は不信な音を耳にして目を開きました。泡が弾けるような音でした。最初は何か耳に詰まっているのかと思いましたが、指を突っ込んでみてもなんら変化なく、どうも天井の方から音がするらしいのです。「プチプチ」と続けざまに音がします。私は、禁止されていましたがそっと窓を開けて上の階の窓を見ましたが、元より消灯時間以後で、様子を窺うことはできませんでした。
諦めてベッドに戻り、布団を頭から被りましたが鳴り止むことはありませんでした。「いつかは鳴らなくなるだろう」と思って音が消えるまで待っていましたが、一時間ほど経っても泡の弾けるような音は消えませんでした。さすがに耐え兼ねてナースコールを押そうかとも考えましたが、私の精神はこの日に至って、まいってしまっていたのでしょう。最も破るべきではない禁を破ってしまったのです。
夜の病院の廊下というのは恐ろしい場所だと想像していましたが、その時の私にとっては「解放」を象徴する場所でした。満月の明かりに照らされた廊下の窓からは私が見飽きた庭とは別の風景が映っていました。それは私の心の鬱屈を少しやわらげてくれるもので、今すぐにでも眼下の景色の中へ飛び出して行きたい、そんな気分にさせられました。妖(あや)しい光の中で私はその高揚を抑え、階段を昇りました。
丁度私の部屋の真上にあたるだろう部屋の前まで来て、そっとドアに小さな隙間を開けて中を窺いました。そこは空室で、マットレスしかないベッドが二つ並べて置いてあるだけでした。不信に思い、中へ入り、そのベッドを暗闇の中で見ていました。
すると、
「プチプチプチプチ・・・」
再び天井の方から音がします。
私はその時、初めて気が付きました。その音がどこから鳴り響いているかということに。
急いで自室に戻り、布団を被りましたが。
やはりそうです。もう疑う必要さえありませんでした。
「プチプチプチ・・・」
その音は私の頭の中から聞こえていたのです。