「いやぁ、申し訳ありません、先生。その『海人』って、私ですよ！」
海人は、なぜ富子が嘘を言ったか、大方の説明をした。
「矢口さん、お母さんを、責めないで下さい。どれもこれも、空ちゃんを思っての事ですよ」
「分かってます。母親が亡くなったばかりの頃は、妙子とも、余り親しくするなって、言った位ですから！」
「私が加わると『三角関係』ですもね」
「先生！彼女とは、そんな関係じゃないですから。今日は、お袋も来る予定が、突然来れなくなったんですよ」
「冗談ですよ。でも、私も『海人』さんと言う、名前を目にしてから、変な意味ではなく、気になっていたんですよ！」
「そうでしたか」
「私の父は、転勤族なので、どこで会った人か、思い出せない事が随分有るんです。でも、母がマメな人で、写真の裏に、日付と、一緒に写っている人の、名前を書いて有るんです。だから、『海人』さんの名前も、桜町小学校の１年生の時の同級生って、分かったんです」
「えっ、あの写真を持っていたんですか？」
「えっ、遠足の写真の事ですか？あっ！もしかして、一緒に写っている『飯島妙子』って、石原妙子さんですか？」
「そうですよ。彼女の旧姓は『飯島』で、同じクラスでしたから！」
「へえ、本当ですか？世間って、狭いですね！」
純子は、改めて驚いた。
中央広場では、フォークダンスや、花火が賑やかに行われ、フィナーレのアナウンスが流れると、一際大きな花火が上がった。
いつの間にか、空たちは、純子の友達と仲良くなったらしく、手をつないで帰って来た。
「お帰りなさい、空ちゃん、早織ちゃん」
「ただいま、先生、お父さん」
純子は、妙子に話し掛けた。
「飯島妙子さん！」
妙子は驚いて、純子と海人の顔を、交互に見た。
海人が、首を縦に振ると、妙子も察知したらしく、純子の手を取り、子供の様に二人は跳び跳ねた。
「ヤッパリ同級生だったの？」
「そうみたいね！」
他の者は、何が起きたかと、二人を見守るだけだった。
「お父さん。お姉さんたちと、中へ入って、遊んで良い？」
「ああ、みんなで入ろうか」
海人が言うと、みんなは、５号棟へと入っていった。
空と早織、亜希子と陽子は座布団を並べて、トランプを始めた。
純子は自分のコテージに戻り、ビールの入った、クーラーボックスを持って来た。
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