海人と妙子、純子と翔子は食卓に腰を下ろして、ビールを飲み始めた。
「こんな所で、同級生と再会出来るなんて、うらやましいですね」と、翔子が言った。
「いやあ、本当に。先生とは、4月から何度か、顔を合わせているけど、いざ、同級生だったと分かると、親しみを感じますね!」
「本当よね。1年生の時の、遠足の写真を、先生も持っていたなんて、感激ね!」
「私の方こそ、入学式のその日に、私の事を噂していたと聞いて、嬉しいですよ!」
「純子先生!今日来た目的が、変わっちゃったね」と、翔子が茶化したように言うと、妙子が聞いた。
「えっ、目的って何ですか?」
「純子はね、『男探しの旅に行くぞ』って、一番楽しみにしていたんですよ」
海人と妙子は、目を丸くして、驚いた!
「止めてよ翔子!子供たちに、聞こえるでしょう!それに、こんな所で言わなくたって……」
純子は、顔を真っ赤にして、両手で覆った。
海人は、いつまでも顔を上げられない純子に、慰める様に言った。
「先生、気にしなくても良いですよ。先生だって、一人の女性だ!恋愛願望が有って当たり前。逆に、無い方が可笑しいよ!」
「そうですよ、先生。早くに結婚しても、私の様な者もいるんだから、焦らない方が良いですよ!」
トランプをやめて、空が海人の側にやって来た。
「お父さん、今日は男、お父さん一人で、モテモテだね!」
「うん、そうだな」海人は、目を細めて、空を膝の上に抱き上げた。
「でもお父さん。空のお母さんは、菜緒お母さん、一人だけだからね!」空はそう言うと、海人に抱きついた。
突然の空の言葉に、海人は驚いた。菜緒が亡くなってから、来月で1年になるが、空の口から、菜緒の名前を聞くのは、久し振りだった。
「おばちゃんも先生も、お父さんを好きになったら、ダメだからね!」
「空……!」
海人は、目頭が熱くなり、空を強く抱き締めた。
空は、今まで言いたかった事を、やっと言えた、と言う感じで、海人の胸の中で、泣き始めた。
空は、母親がいない、その悲しみを、ず〜と小さな胸に、しまい込んでいたのだ。
そして今日は、母親以外の、大勢の女性に囲まれ、楽しそうにしている海人を見ていると、自分の母親が、可哀想に思えたのだった。
「さあ、そろそろ帰ろうか?」と純子が立ち上がると、3人の友人も立ち上がった。