数分後
「はぁ・・ちょっと、諒吾。・・・はぁ、何で、つっ・・急に走り出すのよ」
急な出発に二秒ほどほうけてしまい足が縺れたが、強引に腕を引かれたため下手に倒れることも出来ず、なおかつ脳内でその出来事を処理しくれていないため制止の言葉もかけられずに共に走ってしまった。
「いや、まあ、そこまでたいした理由は無いんだが・・・」
「じゃ、じゃあ、はぁ、何で走ったのよ?」
息を荒げる美香に対し、諒吾は特に変わった様子を見せずに頭を掻く。
「何となく長丁場になりそうだったからな、わざわざ道端でしたくねぇからな」
「・・・それだけ?」
「それだけ」
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙。
その沈黙の意味がよくわからないのか諒吾はあきらかに疑問符を頭に浮かべ、美香は疑問符の代わりに怒りで満たす。
そして、それはすぐに行動に現れた。
美香は諒吾の襟あたりを掴み、出会って間もない時と同じように振り回す。
「何でアンタはそこまで自由なのよ。もう少しゆっくり見学させなさいよ」
「いや、お前だって連れ出す時強引だったじゃないか?」
「うるさい、来て間もない人の意見をもっと尊重しなさい」
「おい、そりゃ理不尽だろ」
お互い様だと彼は静かに思うが、それを言いたいと思った時には振る速度が速まり、とても言葉を吐けるような状況ではなくなった。
「五月蝿い、ウルサイ、うるさぁぁぁぁぁぁい」
一単語ごとに振る速度を倍にする。
(なんか、もうどうでもいいや)
すっかり意気消沈した諒吾は目線を彼女ではなく他のところに移す。すると
「ん?ありゃ?大将?」
「おっ、おお諒吾。久しぶりだな」
彼の目線の先にはたっぷりと肥えた男が立っていた。