「して、人助けとは?」
結城兵庫ノ介が問いを発すると、島田竜之進は多少もったいをつけ、
「仇討ちじゃ。 …他聞をはばかるゆえ、近寄りますぞ」
言うや、辺りを見回しツツーッと膝を進めてくる。
「ほぅ?名義人がおさな子にござるか」
「左様。 介添えは風にも耐えぬうら若き娘御じゃ。
何とぞ加勢の儀、お願いつかまつる」
そう深々と頭を下げられ、ふと、ある事に思い至った兵庫ノ介。
「この刻限に参られたは、他の道場を回られたゆえにござるか?」
「…失礼ながら、名のある道場にて、ことごとく追い返され申した。
相手が妖しの術を使うとならば、一様に腰が引けたるに相違ござらん…」
憤りをこめて語る島田の話に少々引っ掛かるものを感じた兵庫ノ介は、事細かに尋ね始めた。
〈田代藩藩邸〉
「あなた様が立ち会いをなさるお方にございますか。
わたくしは、橘由紀と申します。 これは弟の小太郎にございます。
何かと至らぬ所がございますゆえ、よしなにご指導のほどお願い申し上げます」
「は…はァ、必ずやお役に立てますよう、あい努めさせて戴く所存」
娘の鈴を転がす様な美声に多少面食らった兵庫ノ介であった。
由紀の可憐な風情と、小太郎のひた向きな眼差し。
結城兵庫ノ介は、幼いきょうだいを交互に眺めるうち、支えてあげたいと云う強い衝動が満身を貫いていった。
《武の本義とは、戦いを止むる事なり》
…ひいては、弱者を守る事でもある。
兵庫ノ介は、折衝役(せっしょうやく)の島田を含む数名の藩士たちと共に早速(さっそく)打ち合せを始める事とした。
「何と! 結城殿、それはまた……」
「いかがかな? まァ、仕上げをとくと御覧(ごろう)じろ、と云う次第で」
兵庫ノ介は、半ば呆れ顔でいた家中の藩士達に、ニヤリと苦み走った笑みを向け、ぬけぬけとそう云った。