「高いとこが好きな奴はちょっと変わっている」
昌也はそう思っていた。
そのいい例が今、昌也の目の前にいた。
浩紀は昌也など気にしていないといったような表情をしていた。
冬の切り裂くような風を受けているが寒がる様子もない。
「浩紀、降りてこいよ。俺はもう中に入るぞ。」
昌也は大声で言い校舎の中に入った。
かじかんだ手を擦りながら待っていたが、来る気配はなかった。
…まただ。
思いながら、昌也は外に出た。
やはり風は体を切り裂くように冷たい。害意があるのか、と思うほどだった。
テトラポッドの近くにまだ浩紀は立っていた。
一点を見つめたまま、眉間にシワを寄せている。
「浩紀、降りてこいよ。」
浩紀は動かない。
昌也は梯子を上り、浩紀の横に立った。
「お前、寒くないのか。中入ろうぜ。」
返事はなかった。
「聞いてんのか、浩紀」
昌也はきつく言った。
「聞こえてる、全部。」
浩紀は短く言った。
降りようと言って、昌也を置いて、浩紀は先に行ってしまった。
一人取り残されたかたちである。
…変わっている。
思いながら、昌也は梯子を降りた。
風はまだ吹いていた。止む気配はない。