それは数時間前のこと。
「こんな日に、ごめんね」
俺はなんの脈略もなく付き合っていた彼女にふられた。
実に卑怯なふり方だった。
あなたのことが嫌いだから、とか他に好きな人が出来たから、という方がまだあっさりしている。
それなのに、彼女ときたら同意を求めるように、
「私たち、もう駄目だと思わない?」
いや、思わない――そういって彼女を抱き締めたら、どうなっていただろう。
しかし、それをすることは出来なかった。
彼女の目があまりにも切なげで、それ以上近づけば、蜃気楼のようにふわりと消えてしまいそうだったのだ。
ああ、そう。じゃあ。今思えば、そんな気の抜けた返事をした気がする。
間違いないのは、その場から足早に立ち去った彼女を、いつまでも見つめていたことくらいだ。