祖母が死んだ。
癌で、見つけた時は末期だった。胃カメラで見た癌の患部は真っ黒に変色し、丸く窪んだり、腫れたりした白い癌になりかけのところは胃、腸などの臓器にびっしりと、数え切れずに無数に広がっていた。
私は、あれほどの絶望を味わったためしがない。
医者からは「ここまで進んでいて生きているのは奇跡だ」と言われるほどひどい有様で、祖母はいつか便がきちんと出なくなると言われ、便が出るようにバイパス手術をした。
その3ヵ月後、誰にも気付かれることなく、そっと祖母は亡くなった。看護婦さんや医者や、付き添っていた伯母にすら気付かれることなく、あまりに静かな最後であった。
八十七の誕生日まで後、二日の、ばかに朝日が美しい日だった。
祖母はしわだらけで、からからに乾き切ったミイラみたいな死顔をしていた。
だが、やさしく、穏やかな眠っているような死顔であった。こんなに痩せ切った顔でもばあちゃんは、元のばあちゃんであった。
納棺のとき、私は祖母のために編んだやわらかいモヘアの毛糸の膝掛を入れた。ついぞ使用することのなかった、白と水色の膝掛。