現実とは厳しいものだ
残業を命じられた
残業なんて…何ヶ月ぶり…
なんで今日に限って…
心の中でも何十種類もの愚痴を叫んだ
もちろん、声には出せない
イライラしながらも仕事を終え
帰宅時間はPM11時をすぎていた
社会人2年目にして、人生初のストレスを感じた
残念ながらその週は残業が続き
練習はできなかった
土曜練習日、不満を片波さん達にこぼしてみた
笑いながら、おれを宥めてくれる
心は癒された
体は痛められたが。
月曜日、仕事が終わり急いで家に帰った
母の作った料理を口に詰め込み
道場へ向かった
あ、ヤバイ。道場の電気がついてるぞ
だれかいる
心臓が高鳴った
まだ知らない人の方が多いからだ
恐る恐る扉を開ける
黙々とサンドバッグを叩いてる人がいた
いや、叩くなんて生優しいものじゃない
吊してる鉄のチェーンが悲鳴をあげていた
幸いにも相手はこちらに
気付いていない
帰ろうと思った
足を一歩後ろに下げた瞬間
(ピピピピピピピ)
タイマーの音がなる
そしてその人はこっちに気付いた
サンドバッグ叩く時間を計っていたタイマーを止め
こっちを見る
もう逃げれない
相手は汗まみれで、おれを見ている
「あの、初めまして…土曜練習来ていて…あの…」
おれは完全にビビっていた
その人の体といったら…
筋肉の鎧という比喩を
漫画などでよく見るが、まさにその通りの体だった
すこし間があった後
「ああ、鎌田です。よろしく」
営業という職業病だろうか
深々とサラリーマンの挨拶をしてしまった
恥ずかしかった
「もう自分帰るから、後は頼みます」
鎌田さんは汗を拭い、着替えを始めた
服を脱ぐと更に筋肉が凄まじかった
一人になった後
サンドバッグを蹴ってみた
ベチ
可愛い音が鳴った
少し足が痛かった
あんな人と組手…
考えるとブルーになる
しかしいつかしなければ…
複雑な思いでサンドバッグを殴っていた