片波さん達に、鎌田さんと会った事を話した
ニコニコと話を聞いてくれた後
「彼ねぇ体と力は凄いんですがねぇ…」
含みのある言い方だったが
それ以上は言わなかった
おれも空気を読んで聞かなかった
その日の練習が終わった後
貼紙がしてるのに気付いた
(次回火曜祭日ですが練習あります)
祭日…おれも来れる…
「こ、これって…おれも行っていいんでしょうかっ」
興奮気味に片波さんに聞いてみた
少し驚いた表情をして
「もちろんですよ。経験したらどうかな」
ニコッと答えてくれた
最近、今の練習に慣れてきたこの頃
チャンスだと思った
おれも少しは強くなった
それを他の人に見てもらいたい
もしも…誰かを倒したりしたらもう…
あれ…おれってこんなに意欲あったっけ… こんなにポジティブだったっけ…
自分でも自分の変化に戸惑っていた
月曜日、明日は祭日
一日通勤してまた休み
楽なようでけっこう怠い
その日の仕事時間は
明日練習だが、今晩自主トレするべきか…
今晩の自主トレでどこか痛めたらどうしよう
一日中そんなくだらない事を考えて終わった
帰宅し、飯を詰め込み出ていくとき
「あんた、最近夜出てるけど…まさかグレたんじゃ…」
母が話してきた
「い、いや…空手…」
キョトンとした母の顔が印象的だった
少しクスッときた
言ってなかったかな…
今日は自主トレメニューも決めてきた
また道場に電気がついている
鎌田さん来てるのか
でも一度会ってるし、大丈夫なはず
扉を開けると同時に
「こんばんは〜」
挨拶をした
サンドバッグの方向には誰もいない
「うぃっすぅ」
という声が死角になってる
左から聞こえてきた
そこには座って本を読んでる人がいた
ロン毛、まっ茶な髪。ネックレスやブレスレットに指輪。 左肩から見えるタトゥー…
返事はしたくせにこっちは見てない
むしろ…道場生?
髪をかきあげつつこっちを見て
「あれ、キミ誰?」
その男と目が合った
背筋がぞくっとした