『言わなくては…』
そんな茜の『声』の意味が気になったまま…
俺達は目的地に着いた。
そこに至るまで絶えず茜の『声』は聞こえていたが…
俺は敢えて『声』に耳をかたむけようとはしなかった。
何だか茜の心の中を覗いてしまっているようで、嫌だったからだ。
決して俺はこの状況を望んだわけではない。
茜はテキパキと買い物を済ましていく。
買うものがあらかじめ決まっているなら、俺を連れてくる意味ねーじゃん…。
などと思うのだが、まぁ…茜の気まぐれとワガママは今始まった事ではない。
今更そんな事を言えばほっぺを膨らませながら怒鳴り散らすに違いない。
…さて。
茜の買い物も終了したみたいである。
今日はとっとと帰って、俺はコタツでぬくぬくしながらアイスを食べるんだ。
冬の季節にコタツで食べるアイスほど贅沢なモノはない。
俺の唯一の楽しみだ。
誰にも邪魔されない、至福の時を一刻も早く味わいたい…。
『言わなくては…』
…またか。
折角忘れていたのに。
…そもそも、俺は茜の心の声なんて聞こえる必要はないんだ。
茜の考えている事なんて大体分かるんだよ。
コイツ程、単純な思考回路なやつはいないからな。
俺は早くアイスにありつきたかった。
俺は少しめんどくさそうに茜に言った。
『何か言いたい事あるんだろ?用があるなら、早く言えよ。』
茜はかなり驚いた表情で俺の顔を見上げたが…
また直ぐにうつむいた。
『好きって…伝えなきゃ…。』
……え?
今…、何か聞こえたけど…?
…嘘だろ?
茜は顔を真っ赤にしてうつむいたままだ。
『勇気を出して…好きだと…伝えなきゃ…。』
茜の心の声は…
恥ずかしげもなく、俺を『好き』だと言っている…。
俺は…。
言いようのない罪悪感と、戸惑いを覚えて…
その場から茜を置いて走り去ってしまう…。
つづく