いつものように満員電車に揺られる1日が始まった
揺られながも空手の事を考える
少しスペースがあると
軽く腰を落としてみたりする
(なにかの練習にはなってるはずだ…)
会社に着き、上着を自分の椅子にかける
そしてオフィスから出た自販機のコーヒーを買い
デスクで飲む
飲み終わる頃、朝礼が始まり
いつもの不況に負けずという話
(特に喋る事もないんだろうな…)
朝礼が終わり、デスクに戻ろうとしたとき
奥の会議室に、上司に呼ばれた
(なんだろ…リストラかな)
そう考えた直後も
(空手いっぱいできるかも…)
ノーテンキな事を考えてしまった
おれが軽く一礼して会議室に入ると
部長が
「あー、野上君がね」
野上さん。会社の先輩であり
まだ営業のイロハも知らない頃
この野上さんに、くっついて
いろいろ学んだ
「野上君がね、家庭の都合で今月いっぱいで退社する事になった」
(え…)
ショックが無いと言えば嘘になる
ここ最近は離れていたとはいえ
恩人だから
部長の話は続いた
「彼、いくつか受け持ってる得意先があるんだが…」
(まさか…)
「君なら安心できる。君に任せて欲しいとの事だぞ」
またショックだった。だって…
「野上君から指名されるとは。立派なものじゃないか」
人の気もしらないで、部長は
おめでとう と言わんばかりに笑っている
野上さんの持っていた会社は…夜遅くまでの販売メーカーが主だった
必然と帰りが遅くなる
以前のおれならば、嫌がる事もなく
逆に喜ぶ事なく、受けていただろう
けど今は…それでも断る事ができない…
来月まであと半月
野上さんのデスクを見ると
すでに出かけたようだ
同期の仲間は
「お前、昇格するんちゃうか」
などと囃し立てるが
それとはうらはらに
おれの気持ちは曇っていた