「――鷺沼」
男はボソリと何かを口にした。
「!?」
「俺の今の名だ。殺したい奴の名くらい知っておきたいだろ、少年?」
そう言って男は笑う。
それと同時に部屋の火の勢いがさらに速まった。
…もう時間がないっ!
「はは、じゃあな少年。また遭おうぜ?」
「っ…!」
畜生っ!
「――――」
そう言って男は天窓から消えていった――。
*
ペシペシと頬を叩かれる感じがした。
「……るさい…」
寝惚けた調子で俺は叩く何かを払った。
…よし、これでまだ眠れる。そう思った矢先だった。
――ガンッ!
「いってえぇぇえぇっ!!」
頭に何か有り得ないと思えるほどに堅い衝撃が走った。どう考えてもそれは人間が受けて無視できるほど優しくは無かった。
「――眼…覚めましたか…?」
飛んできた方向から声が聞こえてきた。俺は痛む頭を押さえながらその方向に顔を向けた。
そこには一人の気だるそうな目をした少女が居た。
「なぁ…今何投げたよ、お前…」
「…」
彼女が指差した先を見ると先月通販で買った鉄鍋が落ちていた。
――よく今生きてるな、俺…。
「…幾ら今日が定休日だからって…寝過ぎです」