彼女は怒るように言い肩に掛かっていた白髪を払った。
「いや、そうは言うけどさ昨日の依頼結構キツくて寝る暇なかったから――」
「しょうがない…とでも言い訳する気ですか?」
「…」
…仰る通りで御座います。
「…まあ良いです、さっさとその寝惚け眼を水で覚ましてきてください…」
呆れたような目で俺を見た後彼女は部屋を出ていった。
「…」
無言で俺はベッドを見た。
二度寝しろぉ二度寝しろぉと布団が語り掛けてくる。
「――ちなみに、もし二度寝した場合は脚立を投げます」
有無を言わさんとする冷たい声が聞こえてきた。
「…顔洗ってきまーす」
ベッドから起き上がり俺は洗面台に向かった。
「うわっ、冷てぇ…っ」
水道から出る水は氷のように冷たく皮膚に突き刺さった。だが、そう思ったのも一瞬の事ですぐに皮膚はその冷たさに慣れた。
「…ぷは〜」
キュッと水道を止め俺はタオルに手を伸ばし顔を拭いた。
そこで、ふと鏡に写る自分の姿を見た。
少し髭が伸び始めた顎。そして、若干やつれ気味の表情をした青年の姿がそこにあった。
「……三年…か」
髭の具合を確かめながら、俺はそんな事を呟いた。