サンタの仮面を被る人 3

国部希  2009-03-05投稿
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 そんなわけで、カバンに入った指輪とケーキは用をなさないものと化していた。彼女と出会って一年。このために必死で貯めた金だったのに、あまりにも虚しすぎる。

 このままカバンをどこかへ置き去りにして、アパートに帰ってしまおうか。このうえなく投げ遣りな気分に襲われる。

 酒を飲んで何もかも忘れてしまいたいのに、有り金は底をついていた。指輪を質屋に出そうとも考えたが、この時間ではもう店が閉まっている。

 自分は今日、この世でもっとも不幸な人間だとさえ思った。




 そして今、俺は人間として一線を超えた行為に至ろうとしている。

 路地の影から、一軒の家を覗いた。そこらの家よりは断然大きな造りだ。二階建てで、屋根は赤く、壁は生クリームのように白い。何となく、豪勢なクリスマスケーキを連想させるので、嫌な感じがした。

 近寄ってみると、誰もいないのかと思うほど静かだ。まあ、こちらとしてはその方が助かる。

 腰くらいの高さの柵を乗り越え、敷地内におり立った。

 一応、通りを見渡してみる。
 よし、誰もいない。
 そして、深呼吸をした後、前を睨んだ。


 この家から、金を盗んでやる。

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