十時五分―\r
淳の店のイベントが行われるクラブに着いた。地下一階〜三階までがクラブスペースになっていた。一階部分には、飲食店が入っていて、その脇に地下に通じる階段が有った。階段や、飲食店周りは、閑散としていた。十時を回ると、客は、フロアに入ってしまっている。階段の前には、幾つかのお祝いの花が置かれていた。
「もう、十時過ぎちゃってるから、人は、中に入ってるんだろうね。」
茉莉子は、辺りを見回して言った。
「まぁ、今、始まったばっかだし、後から来る人も一杯居るよ。取り合えず、中に入ろうよ。」
そう言って、麗華は、階段を降り掛けて、後ろを振り向き、私達に手招きした。
麗華に、促されて、階段を降りると、入口に、レセプションが有った。そこには、男性と女性の二人が立って居た。
「誰かのお知り合い、招待の方でしょうか?」
男性が、手元の名簿らしき物を見ながら、私達に聞いた。
「山上淳の友達なんですが・・・。」
「はい、聞いてます。金山麗華さんと・・・、石田茉莉子さん、藤川香里さんですね?」
「はい・・・。そうです。」
「どうぞ、淳さん、中に居ますんで。」
レセプションの男性は、そう言うと、右手で、フロアの向こう側を指した。私達は、男性が指した先に、三人で進んだ。
「人、凄い多く無い?」
麗華は、人を両手でかき分けながら言った。
「凄い人だね〜。」
私も、淳の店の人気に驚きつつ、久し振りのクラブの雰囲気に、溶け込め無いまま、麗華の後ろをキョロキョロしながら、歩いていた。
「おぉ、茉莉子じゃん!」
私の後ろを歩いていた、茉莉子の背後から、聞き覚えの有る声が聞こえた気がした。
その瞬間、反射的に振り返ると、そこに、淳が立っていた。
さっきまで、淳の話をしている時は、遠くに居る人の話をしている気がしていたのが、急に、現実を帯て来て、理由無く、高鳴る胸を抑え切れずに居た。