参入志願者逹 2
「お疲れ様でした〜!」
若いスタッフの声が響き渡ると、タクヤはふぅっと息をついた。
花束を競演した女優から受けとると、ニッコリ微笑んだ。
タクヤ主演のドラマがクランクアップしたのだ。
タクヤは国民的アイドルグループのメンバーだ。
歌に俳優業、バラエティー番組と休む間もなく働いて築き上げた場所だ。
大物女性歌手と結婚し子宝にも恵まれた。
人は皆、彼を成功者と呼ぶ。しかし…。
タクヤは時々、心の中で別の自分が囁くのだった。
「これで、お前は満足か?」
その声を聞く度に、胸にモヤモヤとした虚ろな空間ができる。
これ以上何を求めるのか?俺は何を望んでいるのか?一体何が不満なのか?
自分でも分からなかった。しかし、この思いはいつもタクヤの心のどこかにあるのだった。
タクヤは、そんな素振りは周りには絶対に見せない。
彼は一流なのだ。
しかし、仕事の多さに最近は疲れ気味なのは確かだ。
そんなタクヤの考えを見透かしたように、所属事務所の社長がグループに1ヶ月の休みをやると言ってきた。あり得ない事だが、社長は本気だった。
突然の休暇にグループのメンバーは戸惑いつつも、あれこれと計画を立てているみたいだ。
タクヤは何も考えていなかった。家族にも休暇の事は言っていない。理由はない。何となく言いそびれただけだ。
仕事はもう終わった。長い休暇の始まりだと思うと、また、タクヤの中の別のタクヤが囁き始める。
「これでお前は満足か?」
うるせぇ!黙れ!タクヤは別の自分をねじ伏せる。
ああ、あいつは満足しているのだろうか?
タクヤは、ふと昔グループを脱退し、自分の夢だったレーサーになった元メンバーの事を思い出す。
あいつはあいつ。俺は俺。関係ないさ。
楽屋で考え事をしているとメンバーの一人であるツヨシが入ってきた。
「ねぇ、これなんだけどさぁ」ツヨシはケータイの画面をタクヤに見せる。
ギャラクシーラリーというサイトだった。
タクヤの胸で心臓が、とくん、と鳴った。