10代の頃、その時間は永遠に続くものだと思っていた。退屈で仕方ないなんて事は全くなく、部活にバイトに時間をやりくりして楽しい学生生活だった。その頃自分は忙しいのだと思っていた。20代になって本当の多忙を知った。朝、電車に乗っていたかと思ったらもう、帰りの電車に乗っている。就職してからはこんな毎日だった。立ち止まってしまうと時間に取り残される様な感覚だった。何かの映画で見た自分1人がそこに立っていて、その周りの時間が早送りしたかの様に流れていく。そんな風だった。そして気付いたら30代に突入していた。
"20代が終わってしまう!!"
と、意味もなく焦ったりする事もなく、気付いたら20代は終わっていた。しかも誕生日に友人からのメールで私は気付いたのだ。30歳になったのだと。
20歳になる前はティーンズでなくなる事に抵抗してみたくなったものだが、まさか10年後に自分の年齢を人に教えてもらわないと忘れているなんて思いもしなかっただろう。
「私さぁ〜、寿退社するわ」
同期のカナコが注文を終えると水を一口飲んでから私に突然言った。
「えっ?!」
ウェイトレスのドリンクは食後でよろしいですか?のマニュアル言葉を無視して思わず大きな声を出してしまった。
「ちょっ、ちょっと!何?突然何の話?あっ、2人共食後でいいです」
「かしこまりました」
混雑している店内では私の大きな声は簡単にかき消された。カナコは思いっきり驚いた私の顔を見て、にやりと笑った。
「寂しくなるでしょ?」
「うん…。寂しくなるけど、何で仕事辞めちゃうの?」
カナコとは社会人になってからの友人。それ以前の事はそんなに知らない。私の知っている限りは取っ替え引っ替えとは言い過ぎかも知れないが、彼氏が変わっていた。でも今の彼とは2年程続いていた。初めての事だったから、いつかは結婚するのだろうとは思っていたが、仕事まで辞めてしまうとは青天の霹靂だった。
「え〜!そっち?寿の方は?先越された悔し〜い!!とかないの?
「ない」
即答した。一瞬間があって2人で笑った。そこにサラダが2つ私達のテーブルに届いた。