私の趣味は釣りだった
池に糸をたらして
景色を見ながらのんびりできる
そんな癒しの趣味
今日も夕方からいつもの
神田池に行き、糸をたらす
今日は全然釣れない
「釣れますか?」
後ろから初老くらいの男性が声をかけてきた
「全然」
答えながら後ろを振り向くと
鮮やかなハンティング帽を深くかぶり
私に一礼する男性が立っていた
顔はよく見えなかったが
その男は、少し離れて横に座り
釣りを始めた
(今日は釣れないのに)
思った矢先に、男の竿がしなる
しかし釣り上げたのは長靴だった
(ぷぷっ…)
糸をたらしたばかりの男の竿が
またしなる
(おいおい…)
今度は中になにか詰まっている手袋だった
(あんた才能あるわ)
私は心の中で彼を小馬鹿にした
「いやぁ、なかなか釣れないもんです」
彼がそう言っても私は何も言わなかった
「他の部分は釣れるのに、大事なモノがなかなか」
(何言ってんだ、この人)
そしてやっと私の竿がしなった
だが、なんだか重い
(おれもゴミ釣ったか)
少し恥ずかしくなりながらも
ゆっくり糸をたぐりよせる
(なんだこれ)
しかし引き寄せるほどに
形が見えてきた
帽子のようだ
(あれ…この帽子って)
「おお。釣れましたか」
(…!)
この帽子は男性がかぶってたやつじゃないのか!
不安を思いつつ
ゆっくり手繰りよせる
(帽子の下…なにか付いてるな)
じっと見つめると
鮮やかな帽子の下の目玉ぎろっとが動いた
「うわあっ」
生首だ
竿を投げ捨て
横の男性を見ると
さっきまでかぶってた帽子がなかった
いや、首から上がなかった
「せっかく釣ったのに、なぜ手放す?やっと見つかったのに」
私は逃げた。泣きながら必死で
しばらく時が経ち
私はもう釣りはできなくなっていた
そんな頃
風の噂で、神田池で初老くらいの
バラバラ遺体が発見されたと聞いた
私が見て話した相手は
一体なんだったのだろう…