私の名前は村瀬 香織(ムラセ カオリ)
彫師になるべく、修業の日々を歩んでいる。
入れ墨…私にとっての入れ墨は、人生そのものなのだ。
生きた芸術…
私はそう思う。
タトゥーとは違い、一針、一針に命を吹き込む用にして、絵が生まれていく…
別にタトゥーが悪いと、批判している訳ではない。
タトゥーにはタトゥーの良さがあるのだから…
ただ、タトゥーと言うものは、若者達が気軽に入れられて、オシャレの域があるが…
入れ墨は違う。
彫師は、一針、一針に魂を込めて、一つの絵を彫っていく。
入れ墨を入れる人間の覚悟やこれからの人生を考えながら…
私が初めて入れ墨に出会ったのは13才の時…
先輩に連れられて手彫の彫師さんの所に行ったのがきっかけだった。
彫師さんの名前は龍針(リュウシン)と言ってかなり有名な方だったらしい…
部屋の中には龍針さんが今までに彫った写真がずらりと並んでいた。
その中の一枚の入れ墨に私は心を奪われた。
ドラゴン…
いや、どちらかと言えば龍神と言えるのでは無いかと思うぐらい迫力があった。
その一枚の写真を見てから、私は彫師になろうと決心した。
女で彫師…
誰もが無理だと言うだろうが、私は本気だった。
そんな話しを親や友達が許してくれるわけもなく、結局、彫師の道を歩むには犠牲が必要だった。
高校も諦め、親や友達とも縁を切り、孤独になる代わりにこの仕事をすることができた…
と言っても、先輩と一緒に行った龍針さんしか知らないのだが…
龍針は少し戸惑ってこう言った。
『やめとけ…女が足を踏み込んでいい仕事やない』
龍針さんの本心だったのだろうが、私の気持ちは変わらなかった…
半年間、毎日、龍針さんの所に通い、弟子にしてもらう為に頼みこんだ…