ずっと追いかけてた。
背中の、広い背中。
少し猫背な、その背中。
今その背中に寄りかかっていて、先輩と同じ自転車に乗っている。
それだけで、頬が火照って、坂道を下るとき当たる風がそれを冷やした。
『大好き』
信号で止まったとき、先輩の背中にそっと指で書いてみた。
先輩はこそばゆかったのか、ブルッと震えて、背中に手を当てこっちを見る。
私は素知らぬ顔で、そっぽを向いた。
先輩は怪訝な顔をしていたけど、信号が青に変わったので、また自転車はゆっくりと出発した。
少し楽しくなってきた。
次に調子に乗った私は、先輩の脇に手を回し、背中にギュッと抱き付いてみた。
自転車が、横断歩道の真ん中で、キキッと音を立て止まる。
「バカ」
しばらくの沈黙のあと、振り向いた先輩は真っ赤な顔をしていた。
「ほんとに、集中できないじゃん。事故るよ」
「別にいい」
「は?」
「もし骨折とかして入院したら、先輩と一緒の病室にしてもらうんです。
そしたら学校に行くより、ずっと一緒に入れますよ?」
きっぱりと言い切った私を、眉をしかめて見つめていた先輩は、はぁっと溜め息をついた。
「もし! 片方が死んじゃったりしたらどうすんの。
それに…あんま可愛いこと言うなよ」
「どうしてですか?」
私の問いを無視して、先輩は無言で自転車に乗り込んだ。
先輩、バレバレですよ。耳まで真っ赤じゃないですか。
私はクスッと笑って、先輩の頬にそっとキスをした。
自転車がまた、キキッと高い音を立てて止まったのは、言うまでもない。
(完)