軽く頭を下げるゲン婆と、大きく手を振る子供達。
夕日が教会の入り口から差し込み、手を振るクロムにあたっていた。
「…ありがとう。憂牙」
憂牙は何も答えず、クロムの持っている紙袋から林檎を一つ取り出し、教会の出入り口に向かって歩き、そこで止まった。
「あまり目立つ行動はするな」
表情の無い言葉がクロムに向けられる。
「…ごめん。この街に来て、あの子供達と触れ合うことが出来て、この街の現状とあの子達の環境を考えた時、私に出来ることは何だろうって思って‥綺麗な箱の中でしか現実を見ることが出来なかった私が、あの子達にしてあげられる事は、この場所で、神の教えを伝えることだけで、それ以外、私には取り柄がないのです」
「・・・・」
憂牙は、コートの袖で磨いた林檎を一口かじった。
「そろそろ、この街を出る」
「えっ‥」
「少し気になる噂を聞いた。2・3日出掛けるが、大人しくしていろ」
「私にも‥私にも手伝わせて下さい!あの頃より強くなったし、きっと何かの役に立てる。だから私も一緒に連れていって下さい!」
持っている林檎の入った袋を強く握りしめ、クロムは言った。
「‥足手まといだ」
「・・・!」
そうクロムに言うと、憂牙は日の暮れた街に消えていった。
追うことも、言葉を発することも出来ず、ただ、消えていく後ろ姿を目で追うことしか出来なかった。
次の日、クロムは部屋の窓から外を眺めていた。
外は快晴で、暖かい光りが部屋の中まで差し込んでいた。
隣の部屋では、相も変わらず、朝から夫婦喧嘩をしているらしく、女の怒鳴り声と、物が床に落ちる音がして、クロムの落ち込んだ心を静かに癒してくれる環境ではなかった。
「・・・はぁ」
「お〜い!クロム〜!」
窓の外から、子供の呼ぶ声が聞こえた。
つづく