参入志願者逹4
「もっと、こう…派手なやつがやりたいんですよ」
顔見知りのディレクターを捕まえて、ケインは自分のかねてからのアイデアを語る。
「俺だってね、アクションをやりたいんだよ。だけどスポンサーがつかないんだよ。今はね」ディレクターはそう言った。
彼はむずかる子供を諭すような口調で続ける。
「それにどれだけ凄いスタントやっても売りにはならないんだよ。今はCGでどうにでもなるからね」
それじゃ、と手をあげて彼は行ってしまった。
仕方ない。今は筋肉番長の収録に集中しよう。
いつか親父に追い付き追い越す。それがケインの夢だった。
彼の父親はハリウッドで成功したアクションスターだった。
父親に憧れ自分も同じ世界に入った。
しかし、強くなるほど、芸能界に慣れるほど父親の背中が遠くに見える。
くそったれ!もっと強くなりたい。もっと名を上げていつかハリウッドに!
そんな事を考えていると、ワキタ君から声をかけられた。
「ケイン調子はどう?」
ワキタ君はお笑い芸人だ。
「俺なんかさぁ、本業のお笑いじゃスベってばっかだから、こういう番組で頑張っていかないと」
ワキタ君はこの手の番組の常連だ。
そう、この芸能界は前に前に出ていかなければ、生きていけない。
そこにもう一人スポーツマンの芸人のショージ君がやってきた。
「今日はヨロシク!負けないからな。なんつっても俺はこういう番組にかけてっから」
さっきのワキタ君と同じ事を言ってる。
ショージ君は相方のヒロシ君が本を書いたり、映画を撮ったりしてるから焦ってるみたいだ。
ヒロシ君映画撮ったんだ…。ケインはヒロシが羨ましかった。いつか自分も…。
「そう言えば、イッコーさんから聞いたんだけど…」
イッコーさんと言うのは、有名なメイクさんだ。
ショージ君の話はケインには衝撃的だった。
三億円…。山分けしても一人一億…。夢が、自分の映画が近づく。
ケインにはもうそれしか見えなくなる。
「ねぇ、この三人でそのレースに出よう」