ここでようやく、一般星民の間からも声が挙がり始めた。
後銀河連合も星間国家共同体も、そして何よりも宗教界はヒステリックにこれを叩いては踏み潰した。
しかしここで、その宗教界の中からも異議を唱える勢力が出現した。
その指導者・アブー師は、現今の悲惨な状況を痛烈に非難し、新たなるシステムが必要だと全人類に向けて提言した。
【今の時代は地球時代末期に似ている
我々が手にした強大な技術力は現在まで続いた文明と人類種を否定するかさもなくば根源から破壊してしまうと言う二つの恐怖を産み出してしまった
だがこの恐怖を産み出したのは他ならぬ最終戦争論と言う間違った思想である
これこそが我々の心も体も蝕む恐怖の大元であり親である
かつてテクノ=クライシスと言う同じ様な危機に見舞われた我々の祖先は恒久的な文明の礎を新たに打ち立て直す事によって見事にこれを切り抜けた
恒久的な文明の礎とは何か?
それは行き過ぎたテクノロジーの乱用を止め最終兵器に代表される武力に頼らない事である
そしてその為には今一度人類はまとまらなければならない
それによって最終戦争を終焉させ真の平和を取り戻し確立するのだ
最終戦争論は邪論である
それは争いしか産み出さない
故に私はこう呼び掛けよう
最終戦争を終らせることこそが真の戦いでありそれによって勝ち取られた平和こそ真の預言の成就であると!】
アブー師の元には多くの若手宗教家や知識人が集い、彼等は辺境の星系・ヘテに根拠地を置いた。
最終平和思想勢力の誕生である。
彼等は廃戦《戦争放棄》・廃弾《最終兵器の処分》・廃国《戦争に依存する超大国の解体》・建新制《平和確立の為の機構建設》の四つのスローガンを掲げ、その声は燎原の火の如く燃え広がった。
更にこれに呼応する新たなる勢力が次々と出現した。
まず、ジャスティス=ハッカーズが挙げられる。
凄腕のハッカーの集団で、彼等の行う情報工作は大国を揺るがす程であったが、金や個人的愉楽の為でなく、あるいはそれを放棄してアブー師の思想に共鳴し、平和確立と言う正義の為にその技術を行使する事を誓った者達で、彼等は《サークル》と言う秘密組織を立ち上げ、宗教界と二大超大国の三者に敢然と立ち向かい、大いに苦しめた。
彼等が構築した秘密通信網こそ、ネット集合体の復活の原点となった。