パンプスを買った
あれは確か19歳
7センチのピンヒールだった
見える世界が少し変って
少しだけ大人になった気がした
あの頃は早く大人になろうと私は早足で歩いた
慣れないヒールが不安定な私の心を表す様に、ユラユラと重心を定めずにいた
私があんなにも大人になろうと必死だった理由は、言うまでもなく
当時、好きだった男のためだ
健気に尽くした日々は、二か月で幕を閉じた
ちょうどパンプスのヒールが磨り減ってきた頃に、気が付いてしまったのだ
私は二番目の女だと
私は色んな意味で大人になった
こんな想いをするなら大人になんかなりたくなかったと心底思った
煙草を吹かしながら「つ-か俺、ガキには興味ねぇ-し」と散々エッチした後に言う25歳の男に、私は顔面目掛けてパンプスを投付けてやった
命中
私は光沢を失ったエナメルには目もくれずに、裸足のまま飛出してがむしゃらに走った
何だか不思議と悲しくなかった
妙な解放感が私を包みとても心地良かった
あれから10年
ヒールの数は増えて
それを履きこなして
今ではヒールを履かない日がない私は
あの頃からすれば
とてつもなく大人になった
仕事に恋に趣味
忙しい日々がふと麻痺させる
私は今いくつだったかと
気が付けば
ヒールの高さはどんどん高くなって
周りの友達は家庭を気付いて微笑んでいる
これでいいのかと問う
その間にもパンプスは増える
いっその事
靴屋さんと結婚しようか?
くだらない戯言を言いながら、私は真新しいエナメルのヒールを履いて今日も出掛ける
明日は私の30回目の誕生日
履き潰したヒールの数
私はきっと大人になったのだろう