完勝とまで言えるか解らないが彼は未だにかすり傷一つ負っていない。今部屋に存在するのは勝者と敗者。戦闘中には感じなかったが1人になると急に部屋が広く感じた。確かにあった何かが今横たわっている人審士にはもうない。彼は全く知らない感覚に陥り、その感覚に疑問がわいた。動かなくなった後にこの人審士は一体どこに行ったのだろうか。彼はまだ死んだことがないため、死というものが曖昧だった。しかし、死を体験したいとは思わない。直感がそれを避けて、本能がそれを許さなかったのだ。静止して思考すると彼の中の何かがひつように生を求める。言葉などという明確なものではなかったが彼にはそれが理解できた。
しばらくすると人審士の体は溶けてどこへともなく流れていった。その場に武器だけを残して。彼は武器を拾い上げ昇降機へ向かった。昇降機の中で彼はまた考えていた。溶け落ちてその先には何があるだろうか。やはり答えは見つからない。見つからないが時は進む。次の階層へと到着し、昇降機の扉が開かれた。二度目の衆煉層だ。広い部屋に敵がいる。一度目と何も変わらない。ただ部屋の広さも敵の数も前回の十数倍は有るだろう。しかし、そんな事は彼が歩みを止める理由にはならなかった。