「一度ばーちゃんに連れてこられたけど、なんか、綺麗っていうか‥ほら、よく歌とか歌ってるでしょ。真ん中にある十字架に向かって、楽しそうに歌ってる奴らを見てると、ここは俺なんか汚れた奴が来る所じゃないんだって、足がすくんで、結局、逃げ出しちまったんですよ。お恥ずかしい話で」
そう言って、片手を頭にあて、照れ臭そうに笑った。
「とてもいい話ですね」
「えっ・・・」
「昔の話を笑って話せるあなたは、ここに相応しい人だと、私は思いますよ」
嬉しかった。
真っ直ぐに自分自身を見てくれた言葉が、ただ、本当に嬉しかった。そんな言葉に慣れていないせいか、どんな表情をしていいか解らず、ゴンザは無理矢理話を変えた。
「そういえば、今日は”神父様”って格好、していないんですね」
そう。昨日とは違って、黒いタンクトップに黒い長いショールを巻いて、左肩には黒い包帯が巻いてあった。下は濃いめのジーンズに、ごつめのブーツ。長い髪は、赤い、一本のヘアー・スティックて無造作にまとめられていた。
ひとつ変わらないのは、腰にある剣だけだった。
「その剣は、いつもお持ちなんですね」
「これは、兄様の形見なんでね‥これだけは、手元に置いておきたいんだ」
「‥お兄さんの形見‥それは‥」
「なにサボってるんだよ!みんなでやらなきゃ終わらないだろ!」
ゴンザの言葉をさえぎって、一人の少年が、近づいて来た。
クロムを一人占めされているせいか、不機嫌な顔をしていた。
「ごめん、ごめん。少し話をしすぎたね。さあ、続きを始めよう」
子供の頭を撫でながら、途中だった床の修理を始めた。
その直後、奥のほうで子供の声がした。
「あっ!昨日の神様だ!」
クロム達が子供の指差す方向に目をやる。
「憂牙!」
教会の入り口に立っていた。こちらを軽く見ると、フッ‥と去っていった。
「憂牙、ちょっと待って!」
そう言うと、クロムは持っていた金づちを床に投げ出し、教会を出て行った。
つづく