祖母はオレンジ色の何処か懐かしい光を浴びながらおれに手招きをした。おいでおいでと小さな子供を呼ぶときのようなしぐさだった。木目の板張りに足を踏み入れると縁側の床板よりもヒンヤリとしていたが、橙色のはだか電球の光はそれとは逆にあたたかみがあった。先に入り込んでいたおれの触れる事のできない黒い分身は徐々におれの後ろへと移動していた。
「この荷物、ちょっとどかしてもらえる?重くっておばあちゃんは腰がぬけちゃいそうなの」
そう言った祖母の横には祖母の背丈よりも高く積み重なった数個の段ボールがあった。その一番下には水玉模様の布が被せられたイビツな形の何かがあった。おれは軽く頷いて段ボールをどかしはじめた。
最後の段ボールをどかし野球ボール大の水玉模様の布の全容があらわになった。布の下にある物はひょうたんのような形をしていた。おれは祖母に、「これは」と指を指して聞いた。祖母はひょうたん形の物体に近づき、スルスルッと布だけを引っぱった。そこにあったのは革のギターケースだった。