助けて下さい。
僕らは追われているのです。
駆ける度、小さな針が幾つも僕らの踵に刺さって、今にも足が止まってしまいそうです。
逃げ切れない。
逃げ切れない。
助けて下さい。
地に足を着ける度、針は深く突き刺さります。
針の先が肉を貫き、骨をうがつ感触が、怖気と共に神経を這い、僕の脳に伝わります。
足を止めてはいけない。立ち止まれば二度と何処にも辿り着けない。
嫌だ、嫌だ、もう走りたくない。
助けて下さい。
奴らは周到に罠を張って、僕らの邪魔をする。
針が抜けない。
小さな針はすっかり僕の肉に埋まってしまって、もう誰にもわからない。
痛い。
針を出すために、必要なものは?
トゲ抜き?
それとも、ナイフで肉を切り裂いてえぐり出す?
だけど僕らには何もない。
針は埋まったまま、何より、走らなければ。
助けて。
僕らは追われている。
僕らの足跡は赤く、鉄臭い。
小さな針の痛みは、小さな痛み?
そう。
きっと大した痛みなんかじゃない。
チクチクと、突き刺さるだけ。
だからまだ走れる。
まだ…走れる?
走らなければ。
僕らは追われている。針はもう抜けない。
チクチクと。
ヂクヂクと。
痛む。
でも大丈夫。
まだ大丈夫。
針が血流に乗って心臓へ達しない限りは。
たとえ傷口が膿んでザクロの様にただれていても、大丈夫。
速く。
速く。
走らなければ。
奴らが追ってくる。
奴らが追ってくる。
奴らが追ってくる。…