それは、寝ても覚めても頭の中は小説のことばかりで、専ら月に貰える、おこずかいの使い道は文庫本であった。
新刊のハードカバーは、当時の私には高価過ぎ、とても手がでない。そこで私は文庫本を毎月、町の本屋さんで何冊か買うのが何よりの楽しみだった。
これから、どんな物語が私を待ち受けてるのかと、なんともいえない昂揚感で文庫本のコーナーの平積みから、子供ながらにも真剣に作家名からタイトルの順で本との睨めっこである。
それは時間を忘れその場に何十分(ときに一時間以上)も立ち尽くし、文庫本を選んでいたのだった。