革張りのギターケースは冷え冷えとした四畳半に寝そべっていた。布をひっぺがされたそいつは、少し寒そうにみえて、隠され続けていた存在感はこの部屋の中においては群を抜いていた。
「これって…じいちゃんの…」
「…そう」
祖母は穏やかにうなずいた。
「…開けてみてもいい?」
「もちろん」
膝を折りギターケースの二カ所の金具を開けた。パチンッ、という耳障りの良い音が部屋の中に響いた。はじめにケースの内側の赤いビロードが鮮烈に目にとびこんできた。痛々しいほどに真っ赤だった。次にピタリとその中にはまりこむギターが目にはいった。
祖母は布をひっぺがした時の場所に立ちつくしたままだった。水玉模様がわからなくなるほど布をギュッと小さく丸めて抱えながら、ギターを眺めていた。
ギターは黒色だった。木目が縦に入りピックガードは無く、フレットは19だった。ボディーの至るところは色が剥げ落ちて白ずんでいた。弦はすべて錆におかされ、フレットやペグの金属部分も一様に錆び腐食していた。美々しいギターケースに比べると中に横たわるギターはオンボロと呼ばざるを得なかった。
…棺桶に眠る人間…。
そんな趣だった。