彼の家はマンションだったので、少し落ち着いた一安と、滅多に人が通らない階段で話しあった。
話しあったと言うよりは、私が怒られ続けただけだ。
私の携帯電話は折られ、何も言わない私の頭を一安がコンクリートの階段に打ち付ける。
一安が怒ると私の心は、今起きてる出来事から逃げる。
頭を打ち付けられながら、
【髪の毛が有ると、あんまり痛くないんだ髪の毛って役に立つんだ】
そんな事ばかり考えていた。
だから、どんなに怒られても私はまた、彼に逢いに行った。
一安に別れて欲しいと言ったりもしたが、一安は絶対に別れてはくれなかった。
自分でも、何がしたいのか全く解らなくなっていた。
その日彼の家から帰ろうとした私を、彼が待ち構えていた。
「お前、なにやってんだよ」
その日の一安は怒っていなかった。
「わかんない」
私はそう言った。本当にわからなかった。
「帰ろう」
一安はそう言って泣きながら私を抱きしめた。
そして私は一安と一緒に、一安の家に帰った。
帰る途中、私は少し自分の具合が悪い事に気付いた。
一安の家に着いて熱を計ると、三十九度近い熱があった。
そんな私の為に一安のお母さんが、お粥を作ってくれた。
そして、食べ終えた私の茶碗を一安が洗ってくれた。
いつもは、何もしないで座ってるだけの一安が、不器用に茶碗を洗う後ろ姿を私はずっと見つめていた。
私は、彼と逢うのはやめた。
私は誰かに甘えたいだけだったと気付いた。
だから一安に甘えられる様になればいいだけだと思った。