彼は書く私も書く

高柳 美帆  2009-03-23投稿
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私の腕は、ぱっと見では二本。だけど、実際のところ…一本は私の。もう一本はあの人の…。気持ち悪いかもだが、これにはちょっとしたわけがある。
時は私とあの人が高校を卒業してから三年後。あの人が小説界のなかで少し名が知れるほどになった頃。私のもとに複雑な情報がきた。それは…あの人が余命宣告されて、あと二ヶ月の命とのこと…。あの人は意を決して私を呼び出して、「俺の代わりに小説を書いてくれ。」と言った。…だが私は拒否した。そんな才能ないし…誤字でてくるし…なによりすぐ三日坊主になってしまう。それはあの人もわかっているのに…あの人は…「おまえ以外の奴には書いてほしくない!」とまるで…俺はまだ書き続けたい…と訴えそうな目で言った。そして、書きかけの原稿用紙の入った鞄を渡す。私は受け取ってから二ヶ月もその鞄を最初に置いた所から1?も動かさなかった。そして…私はやっと鞄の中を覗きこむ。原稿用紙の束とあの人が愛用していたらしき万年筆が入っている。原稿用紙の束を見て私は驚く。
それをみて、ようやく理解した。つまり、あの人の代わりに今書きかけの小説を完成させる…下書きのペン書きしろということ。そして、私と共に小説を書こうということだ。私はあの人の気持ちを…どれほど小説を書きたいのかが強くわかった。いや…感じた。病院に駆けつけ、あの人のいる病室に駆けつける。そして、私はあの人に「あなたの代わりに小説を書く。私の右腕を捨てて、あなたの腕で書こうと思うの…。」と言ったら案の定。呆然としたが、いいと言ってくれた。あの人の両親にも説得した。最初は驚いてたけど、了承を得た。そして、三日後に入院して手術をした。
そして、数日後あの人は亡くなった…。これにはマスコミでも凄くとりあげられたけど、私気にせずあの人の小説にペンを走らせる。小説は一年近くだったけど、完成した。結果はかなり話題作になった。世間では、『あの人の生まれ変わり』と言っていたが、生まれ変わりなんかじゃない。右腕はあの人のだから…。だから彼は今も…私が死ぬまで書き続ける。
彼は書く。私も書く。



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