「俺さ、女装した真琴が好きなんだよ。 なぁ一度でいいから女装して俺とデートしてくれないかな?」
いきなり親友の弘が俺に言ってきた。
「何を言ってんの? そんなことするわけないでしょ。」
もちろん俺は断った。
「一度だけでいいんだ。あの日からずっと思っていたんだよ。」
弘は俺の肩に手を回しながら耳元で囁いた。
「なんだよ、気持ち悪いな。」
俺は弘のみぞおちに肘鉄を一発食らわした。
「うっ!」
弘は床に踞り、苦しそうに俺の顔を見つめていた。
「痛いな。肘鉄するなんて酷いよ〜、真琴。」
「ごめん、お前が変なこと言うからだよ。」
「だってあの日のの女装さ、すっげえ可愛かったんで…」
あの日っていうのは高校の卒業式前日に行われた前夜祭の日。みんな各々出し物をした時のことだった。
カラオケで熱唱する奴、マジックを披露する奴、ダンスチームを作ってパフォーマンスする奴ら…
すごく盛り上がっていて、俺達はアニメのコスチュームを着て劇をした。
その時俺は女が着るキャミソールとミニスカートの衣装を纏っていた。
その日以来、弘は会う度に俺に女装を要求してくるんだった。
「頼むよ、一度でいいからさぁ。」
弘はいつになくしつこく言ってきた。
「じゃあ、一度だけならな。」
「マジで?」
「あぁ、会う度に言われたら一度はしないと弘の気がすまねえだろ。」
弘は嬉しそうに飛び上がっていた。
「なぁ、どの日がいい?どんな格好がいい?」
弘はウキウキ気分でメモとペンを用意してきた。
「ちょっと待てよ。誰がタダでするなんて言った? 」
俺は弘と駆け引きに出た。
「どういうことだよ?」
さっきまで喜んでいた弘の顔がまた暗くなった。
「条件があるんだよ。」
俺はゴクッと一回唾を飲んだ。
そして続けて
「弘、俺に誰か女を紹介しろよ。」
「なんだよ、それ。 そんな条件ないよ。」
弘は持っていたペンを床に叩きつけた。
「じゃあ、無しの方向でいいの?」
「わかった、なんとかするから‥ちょっと待ってろ!」
弘はすぐに誰かに電話した。
「もしもし、俺だけど‥なぁ貴女の友達を紹介してほしいんだけど。
いい? じゃあ来月にでも‥コンパで。」