夢幻のユキ?

みや子  2009-03-24投稿
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高校からの帰り道。夕焼け色に統一された街を早送りに見ながら走る、走る。
重いかばんを持ち直して狭い坂道を一気に上がりきると、大きな空とオモチャのような街並みが足元に広がる。
この先は下り階段が丘のふもとまで続いていて、両側にある桜並木が静かに揺れて雪のように花びらが降り注ぐ。
頂上のこの場所が大好きだ。
ふう、と深呼吸して気持ちを落ち着かせた私は、いつもの階段に座って脚を伸ばす。
本当なら家に帰る近道もあるんだけど、帰っても独りじゃあつまらない。
夕方はここで過ごすのが定番になっていた。
同じく定番の食堂で買った『いちご牛乳』を飲んで、夕日を眺めて帰る。

はずだった。
『いちご牛乳』が無い。
冷えた内に飲もうと思ってかばんに入れたはず。
重い参考書、使い込まれたペンケース、すべて引っ張り出しても見当たらない。
春風の音が無情に響く。
「何で無いの…?」
つぶやいてふと横を見ると、自分だけだった階段に男の人が座っていた。着物姿で、手には探し物を持っている。
「コレ美味いなあ」
そう言ってパックの『いちご牛乳』を飲み干した、済まなさそうな顔と目があう。
私は怒るのも忘れてぽかんとしたまま、見つめ返していた。
「すまんっ。いつも美味しそうに飲む姿を見て、どんな物か気になってしまって、つい、その、出来心で…」
焦る姿を見て、思わず吹き出してしまった。
「あははっ…変な人だね!一本ぐらいいいよ、飲んだ事無いんでしょ。私を見たことあるみたいだけど、この辺りの人?それとも…」
たまに見える【幻】の類い?
男は困った顔で笑っているだけで答えない。
「じゃあ、さよなら。私帰るね。」
日没が近づいているのを確認した私は男を背にして歩き出した。
風が心地よく髪を揺らす。
と同時に、男はこう言った。
「君を探していたんだ、由季」
急に名前を呼ばれて振り返った時に見た男は、真顔だった。

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