バイトのシフトを思い切って週5回くらいに増やした。
働いている時は、仕事に集中できる。
しかし、仕事が終わった瞬間に、気持ちが不安定になった。
いつも同じ時間に上がる男の人は、今日も休憩室でリンゴジュースを飲んでいた。
私は、更衣室でケータイをいじっていた。
なるべく誰とも絡まないように帰りたくて、彼が先に帰るのを待っていたのだ。
「七星ちゃん」
ドアの向こうからいきなり話しかけられた。
「…はい」
「明日、暇?」
どう答えるべきか悩んだ。そして、
「えっと…何かあるんですか?」
「ライブやるんだけど」
「???」
更衣室のドアを開けた。
彼はジュースのパックの口をいじりながら、椅子に座っていた。
目を合わせずに彼が口を開いた。
「俺バンドやってるんだ、でさ、明日ライブあるから…」
「へー、バンドマンなんですか…どこでやるんですか?」
うっかり聞いてしまった。八方美人な自分が嫌になる。
「N駅の東口のすぐ近く。七星ちゃんライブハウス行ったことないんだっけ」
彼が少し楽しそうになってきた。
…ヤバい。
「4バンド目に出るから、でもライブ自体は6時半からやってるけどね…」
とりあえずニコニコしておいた。
「で、来る時メールして?駅まで一応迎え行くよ」
「あ、はい…てかアドレス知らないです」
ああああ!!何で普通に受け答えしてるんだろう…!!
アドレスの交換までしてしまった。
「…あれ?もしかして無理矢理誘っちゃったかな…ごめんね?」
「いやいや!!楽しみにしてますよ!!」
彼は手を振って、嬉しそうに帰っていった。
行くしかなくなってしまった。
彼がテーブルの上に置いていった空のパックをゴミ箱に投げ入れて、ため息をついた。