憂牙の後をおってクロムはしばらく走った。
赤茶け、過密する住宅地を抜けると、そこには、赤い鉄の要塞があった。
無数のパイプと鉄骨とレンガで出来た建物。その要塞の息が止まってからどれ位経つのか、サビ付いた鉄と、手入れのされる事の無い雑草が生い茂っていた。
「ここは・・・」
スラム街の奥にこんな場所が‥そう想いクロムは足を止めた。ひとけも無く、ただ、遠くからカラスの鳴き声だけが聞こえていた。
「ここは30年前に閉鎖された製鉄所ですよ」
鉄骨の影から憂牙が現れた。
「・・・!」
「昔、この街は、この製鉄所によって栄えていたみたいですよ。でも、閉鎖する7年前位から、近くの山から取れる鉱石の量が減った事と、システムの老朽化で、やむなく閉鎖。人は離れ、その跡地がそのまま残り、スラムと呼ばれるこの街が出来た‥と言うわけです」
「‥あなたは、誰です‥」
キャスケットを脱いだ顔、髪の色、姿、形は、憂牙そのものだった。瞳も赤い‥でも、違う。
声が違う。
「‥その前に、教会からずっとあとを付けている後ろの人は、誰ですか?」
「えっ・・?」
クロムが振り返ると、ねずみ色のマントを頭からつま先までかぶり、顔には奇妙なお面を付けた人物が、クロムの頭上高く、短剣を振り上げていた。
パァーン!
乾いた音と、クロムの横を通り抜ける速い風。
「ぐっ・・!」
マントから赤い血がジワリと広がっていく。力尽きたマントの男は地面にうずくまった。
銃口から白い煙が空へとのぼっていく。
憂牙に似た男は薄い微笑みを浮かべ言った。
「‥はじめまして。エレミヤ国18代目教皇ユリウス・ヴェルハウゼンの御子息、クロム・ヴェルハウゼン様」
「・・・・・!!」
「我が国の任務と、エレミヤ国の依頼により、あなたを救出に参りました‥まっ、任務の一環ですが‥そんなに似ていますか?憂牙という人物に」
銃をしまい、男はクロムに近づいて来た。
つづく