ギターを手に取り、ゴージャスなギターケースから引っ張りだした。当たり前のことだが、ギターにはこれっぽっちの血も通ってはおらず、ヒンヤリと感じた床板よりもさらに輪をかけて冷たかった。祖母は何も言わず、ただただギターとおれを眺めていた。何を想っていたのかはわからない。しばらくのあいだ、とても静かな時間が流れた。おれが間違って弦をはじいてしまうまでは…。
音はみごとに外れていた。何十年ものあいだ、誰ひとりとしてチューニングをしたものはいないのだから仕方のないことだった。意図せず触れてしまった左手の薬指と小指が、申し訳なさそうに震えていた。ギターの1弦と2弦も小刻みに震え、狭い物置に波打つように鳴り響いた。調子っぱずれなその音は、なぜか気持ちのいい音だった。そして、どこか懐かしい音だった。
15年前、十字路でブルースをひく男がいた。そのブルースは一人の少年にのみ聴こえていた。
あの時のあの音だった。